港町バーフォンハイムに到着して数時間が経とうとしている。
レダスとの話を終え、控え室に戻りその部屋を見渡してみるとそこに彼女の姿は無かった―

『まぁ、いつもの事だ』と割り切れない自分がいた。

数日前に見た遠くを見つめ瞳を伏せたの横顔が脳裏に焼きついて離れない。
それは彼女の様子が最近変わってきていると感じている証拠だ。



to the utmost



「またどっかいったな・・・」

独り言を呟いたバルフレアの方を見ながら隣にいたフラン笑った。

「あら、ちゃんと見張っていないとだめよ」

「俺はあいつの保護者になるつもりは無いんだがな」

「現段階ではそうでしょ?」

「さてね」

「違うのなら言わなくてもいいかしら」

「濁す言い方するなよフラン」


バルフレアはフゥと息をついて寄り掛かっていた机から歩き出し
部屋の出口へと向かっていく。
こう云う言い回しは何かがあったということだ。

「サングラスをかけた黒髪のお兄さんと仲良くお出かけしたみたいよ」

「分かりやすい説明だ・・・」






ここに来た時に『気をつけろ』と言っておけばよかった。

よりによってあいつに好かれるなんても少し自分について知るべきじゃないのか、と思う瞬間だ。
落ち着いた雰囲気と穏やかな笑顔が、
どれほどいい印象を与えているのか自分では気付いてはいないのだろう。

いつもよりやや早めの足取りで廊下を歩いていけばその先に目的の人物を発見する。
予想通りの人物と何やら楽しげに『お話』をしているようだ―




「さてさん、次は何処に行きましょうかね。ご希望は?」

「あなたにお任せしますけど」

「あなたとは、他人行儀な言い方だ」

「ごめんなさい、じゃあなんて呼んだほうがいいかしら『さん』でいい?」

「私のことは“アルシド”と呼んでください」

「呼び捨てなんて、だって貴方は―」

「いいえ、さん、貴方の前に居る私は一人の男。立場など関係ないですよ」

「そのように言ってくださるなんて不思議なお方ね」

「謙遜するその奥ゆかしさ、実に出来た人だ」

歯がゆいほどのやり取りは未だ続く。

さん、窓を見てください。綺麗な夕焼けだ」

「本当ね」

「この色はお好きで?」

「ええ」

「そうですか、それなら貴方に見て頂きたい場所があるんですがね」

「?」

「夕日にきらめく"琥珀の谷"の景色を」

隣にいたアルシドはの顔を見つめ肩に流れた髪を掬い上げる

「貴方がいればより一層際立つ事でしょう」

「・・・・・」

さんさえ良ければこれから一緒に―」


最後の言葉が告げられる前に邪魔をするように壁をコンコンと叩く音。
それと共にしびれを切らしたバルフレアが二人に近寄って行く

「ガキじゃないんだ、一人で帰れよ」

「横暴な、人の恋路を邪魔するなど」

「一方通行だろ」

「残念ですが邪魔が入ってしまったようだ」

「ふふ、そのようね」

「ではまたの機会にご一緒いただきたい」

「ええ機会があるとすれば、ね」

「それでは最後に」

「?!―」

アルシドは目の前のを、さも当たり前の様にぎゅっと抱きしめたのだ。

「お別れの抱擁です」

「え、ええ。」

「それではまた」

目を大きくしたまま去っていくその後姿を見つめたままのは呟く。

「こんな風習あるの忘れてた・・・・はぁ」

「おい、

「え、ああ、えと、どうしたの?」

「動揺してるなお前らしくない」

「ビックリするわよ私も、突然だもの」

「意外と鈍感なのか」

「?さっき会った人なのに鈍感も何もないじゃない」

「もう少し自覚したほうがいいぞ」

「それってどういう意味で?」

「いい意味でだ」

「無理ね」

さっきのアルシドとは違い返事を即答で簡潔に述べる
こうやって少しでも褒めるような言葉を口にすると極端にそれを否定しようとするのだ。

「悪い事じゃないだろ」

「それはそうだけど、さ」

「じゃあ覚えとけよ、俺が言ってやるから」

「?!」

バルフレアの手がの腕を掴み、もう片方の手でそっと腰に回し体を引き寄せる。
廊下を歩いていた人が驚いた顔でこちらを見ているのをバルフレアの肩越しに目にした。


「一体何考えるのよっ」

騒ぐ事も出来ず声を抑えながら抵抗する

「お別れの抱擁だ」

「真似なんてしないで離してよ、ここ廊下よ?!」

「わかったって、ほら」

「・・・・・・・・・・・・・」

見るからに不機嫌そうにしているをよそにバルフレアは口元を上げる

「お前の為だ」

「これの一体何処が私の為なのよ・・・」

「信用してないのか?」

「・・・・ええ・・」



「・・・・・何・・」

「証明しただけだ。抱きしめずにはいられない、ってな」

「!?な、、、な、」

「だから自覚しとけ。またこんな事になるぞ」

「しなければいい事でしょ!?それに、、、、からかい過ぎよ、バルフレア」

最近の彼の行動は私の許容範囲を超えてくる。
誤魔化して笑えるほど余裕も無く、高鳴る鼓動が大きくなるばかりで―



「―・・・嫌なんだよ」

「・・・?」

「それにあいつと同じ香水の匂いがお前からしたら皆に疑われるだろ?だからだ」

「だから」

「だからさ」

「本当にそうだからなの?」

「ああ」

「ああ、って。。。つまり今はバルフレアと同じって言う事でしょ」

「そういうことだ」

「それじゃ、、、、、、」

アルシドの香水を皆が覚えている訳が無いし、
それよりも一緒にいるバルフレアの香水が私からした方が余計に怪しまれるではないか。

「余計に困るじゃない!!」

「聞かれたら否定すればいいだろ」

「否定するなんて逆効果」


「―・・・なら認めろよ」

「?―何を」

見上げた先のバルフレアの顔はあまりにも真剣で。
何かを感ずいたは僅かに体を後ろに引いた。

しかしそれをさせまいと彼の指先がの頬に触れている。


「俺が好きだって」

「――――っ」

「認めろよ、

「どうして、そうなるの、、、私」

「これだけ言っても分からないか?」

「・・・・・・・・・・・分かりたくない」



「無理してるつもりないの。だからまだあなたの力借りなくても立ってられるから」

「ならどうしてあんな顔してたんだよ」

「いつも笑っていられる程出来た人間じゃないわ」

「だったら」

「それじゃ駄目なのっ!・・・お願いバルフレア」

「・・・・・・・・」

「もう少しだけ頑張りたいの・・・だから」

「―分かった、、、だが俺が無理だと感じたら何があっても止めるからな」

「我侭言ってごめん」

「いいさ・・」

ありがとう、と小さく呟いてはバルフレアに寄り掛かる。

それを受け入れ優しくその頭を撫でてやればはバルフレア裾を握り締め、
もう一度ありがとうと呟きゆっくりと体を離すと小さく笑ってみせた―